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東京高等裁判所 平成3年(ネ)3065号 判決

控訴人(原告)

橋本利一

被控訴人(被告)

伊那農業共同組合

主文

本件控訴は棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一申立

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、二七〇〇万円及びこれに対する昭和六二年八月九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言

二  被控訴人

主文第一項と同旨

第二事案の概要

次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決事実及び理由の「第二 事案の概要」欄記載のとおりてあるから、これを引用する。

1  原判決二丁表一行目の「事実」の次に「等(3を除いては当事者間に争いがない。)」を、同丁裏一行目の「契約」の次に「(以下「第一契約」という。)」を、同八行目の「契約」の次に「(以下「第二契約」という。)」を各加え、同三丁表二行目の「搭乗者」を「運転者を含む搭乗者の事故車両の事故による」と改め、同三行目「契約」の次に「(以下「第三契約」という。)」を各加える。

2  同三丁表九行目の次に行を改め次のとおり加入する。

「3 前記保険契約には、次のとおり免責約款が存在する。すなわち、第一契約の養老生命共済約款には、被共済者の故意または重大な過失により発生した災害により被共済者が死亡した場合には給付金を支払わない旨の、第二契約の自動車共済約款には、被共済者が、酒に酔つて正常な運転ができないおそれがある状態で被共済自動車を運転している間にその本人について生じた傷害については共済金を支払わない旨の、第三契約の普通傷害共済約款には、被共済者の故意または重大な過失によつて、その本人について生じた災害、被共済者が酒に酔つて正常な運転ができないおそれがある状態で自動車を運転している間にその本人について生じた災害については、共済金を支払わない旨の条項がある(乙第四ないし第六号証)。」

3  同三丁表一〇行目の「3」を「4」と改め、同丁裏七行目の「死に」を削除する。

第三争点に対する判断

次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実及び理由の「第三 裁判所の判断」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

一  同四丁表一行目から同丁裏一行目までを次のとおり改める。

「1 本件事故現場付近の状況は、概略別紙図面のとおりである。右事故が発生した道路は、幅員が約五メートルのアスフアルト舗装された平坦なもので、正宗の進行方向から見て左にカーブしているとはいうものの、緩やかなものであつたから、時速五〇ないし六〇キロメートルの速度で運転しておれば安全に右カーブを曲がることが可能な状況にあつた。また、右事故現場は、正宗宅から五〇〇メートル位しか離れておらず、しかも、正宗は、通勤のため自動車を運転して右道路を通行していて、右事故現場付近の状況を熟知していたため、飲酒による居眠りとか脇見運転など余程の事情のない限り、同人が、後記のような態様の事故を起こすことを予測することは困難な状況にあつた(甲第八号証の一ないし七、第一五号証、乙第一号証、証人倉田啓吾、同橋本和子、弁論の全趣旨)。

2 正宗は、昭和六二年七月二八日午後八時前ころ、父親の原告から駅まで迎えに来て欲しい旨の電話があつたため、事故車両を運転して別紙図面の道路を上島方面から唐木方面に向かつて進行し、間もなく本件事故現場に差し掛かつた。当日の天候は晴れで、路面は乾燥しており、他に自動車の運転を妨げるような事情はなかつたし、また、右道路の交通量は少なかつた(甲第一五、第一八号証、乙第一号証、控訴人本人尋問)。

3 同日午後八時ころ、事故車両は、別紙図面のA点付近で側溝を越えて西側の路外に飛び出し、その車体を道路脇の塀に接触(塀の上部に長さ四・一メートルの、下部に長さ二・五メートルの各擦過痕を残している。)させたのち、同図面の中電柱と書かれた電柱を支えているワイヤーロープに接触して、これを引き抜き、さらに、右電柱に衝突して、半回転し横転した状態で停車した。本件事故により、事故車両は大破した。しかし、右事故現場には、スリツプ痕等のブレーキを掛けた痕跡は残つておらず、別紙図面の松本スバルの出入口から突然自動車が右道路に進出して来たための事故とは考え難い(乙第一号証、証人倉田啓吾、弁論の全趣旨)。

4 本件事故後、事故車両内の左前ドアー下付近から採取した正宗の血液から一ミリリツトル中に〇・五九ミリグラムのアルコールが検出された。血液中のアルコール濃度が右の程度に達した場合には、人間の反応時間は、正常時の二倍となり、自動車の運転者としては危険な状態にあるとされている(乙第二、第八号証、証人高野学、同湯本弥助)。」

二  同四丁裏二行目から同一〇行目までを次のとおり改める。

「 右認定の事実によれば、本件事故現場は、正宗宅から近く、しかも、正宗は、日頃から前記道路を通行していたため、右現場付近の状況を熟知していたし、また、右現場付近を普通の状態で通行するについてさしたる困難も存しない道路状況にあつたから、正宗が通常の運転をしていれば、本件のような事故が発生するとは考え難いうえ、右のような事故の態様及び事故車両の破損状態からして、事故車両の速度を確定することは困難であるが、正宗は、かなりの高速度で事故車両を運転していたものと推認できるし、またハンドルを左に切らないでそのまま進行しなければならないような障害が突然出現したことは何らうかがわれないのに、ブレーキを掛けた形跡もなく、更に正宗の血液から前記のとおりアルコールが検出されていることからすると、本件事故は、正宗が酒に酔つて正常な運転ができないおそれがある状態で、かなりな高速度で事故車両を運転したため、前記カーブを曲がり切れずに事故車両を暴走させたために発生したものと推認するのが相当である。そうすると、右事故の態様などからして、右事故は、正宗の重大な過失によつて発生したものということができる。」

三  同五丁表八行目の「存在」の次に「及びエタノールの臭い」を、同九行目の「おらず、」の次に「そもそも事故車両に消毒用のエタノールの瓶を積んでいたことに疑問があるうえ、」を各加え、同行目の「濃度」から同一〇行目の「エタノールが」までを「通常の消毒用のエタノールの濃度は、七〇ないし八〇パーセントであり、これが流れ出た」と、同一一行目の「採集」を「採取」と各改め、同丁裏四行目の「血液」の次に「一リツトル」を、同五行目の「しても」の次に「〇・七ミリグラム位の」を、同一〇行目の末尾に「また、控訴人は、事故後一年経過した昭和六三年夏ころ、事故車両の中に酒とかアルコールが入つていなかつたか聞かれて始めて、血液にエタノールが混入したのではないかと疑うようになつたとも供述しているが、右供述はエタノールの混入を疑うようになつた経過としては不自然である。」を各加え、同六丁裏一行目、同二行目の「いなかつたとの」を「いたことを否定するに足る」と改め、同九行目の「するが、」の次に「この点については既に説示したとおりであり、」を加える。

四  同七丁表一行目から同丁裏二行目までを次のとおり改める。

「三 以上のとおり、本件事故は、正宗が、酒に酔つて正常な運転ができないおそれがある状態で自動車を運転している間に発生したものであり、また、正宗には、右事故の発生につき、重大な過失があるから、本件事故は、前記免責約款の免責条項に該当し、被控訴人は、本件保険金の支払義務を負わないものというべきである。」

第四結論

以上のとおり原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 時岡泰 大谷正治 板垣千里)

鑑定書

昭和62年7月29日付交発第170号をもつて伊那警察署司法警察員警部古箭隆男から下記の鑑定嘱託があり、命ぜられて刑事部科学捜査研究所において検査の結果次のとおり鑑定した。

〈省略〉

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